ネット風評被害対策のすゝめ その2

お盆の真っ只中、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

数年振りに盆休みで実家に帰っています。あおのです。

さて、好評となった(?)ネットの誹謗中傷シリーズ、さっそく第2回です。

前回は、ネット上の投稿を削除する場合の手続きの概要のお話をしました。
では、どんな場合であれば削除できるのか、というのが今回のお話です。

基本的には、ネット上の投稿などが「違法な権利侵害」を生じる内容だったら大丈夫なのですが、そこでいう権利侵害とは、名誉の侵害だったり、プライバシーの侵害だったり、商業上の権利の侵害(著作権や不正競争防止法の関係など)だったりと様々です。

このシリーズは、風評被害対策がテーマですので、権利侵害の代表格(?)、名誉毀損についてポイントのみ解説します。

名誉毀損とは、不特定多数に事実を指摘して相手の社会的な評価を低下させることを言います。
これは、ネット上の投稿で考えると、掲示板で「Aさんは、◯月◯日に山手線で痴漢をしていた。」と書き込んだ場合を想定してみます。
この投稿は、不特定の多数人が閲覧できるネット掲示板に、痴漢行為を行ったという事実を指摘することで、閲覧した人はAさんが痴漢行為という犯罪行為をする人だと認識することになります。
そして、犯罪を行ったという評価が一般的にその人の社会的な評価を下げるため、名誉毀損を構成することになります。
ひるがえって、ネット掲示板における指摘が社会的な評価を下げない場合、例えば「Bさんは、◯月◯日に山手線でスマホでニュースを見ていた。」という投稿の場合、自分の行動を公にされることへの不快感はあっても、スマホでニュースを見ることが社会的な評価を下げないために名誉毀損を構成しません(プライバシーの問題は別途生じます。)。

また具体的な事実を指摘しない場合やそもそも誰のことを指しているのか特定できない場合なども、社会的評価が下がったかどうかわからないことがあります。

また、不特定多数が見ることが必要ですので、メールで送られたりする場合には不特定多数ではなくなることがあります。

そんな名誉毀損のなかでも最も注意していただきたいのが、「それは社会的に価値のある表現といえないか」(違法性阻却事由の存否)ということです。

例えば、残業が長くて休日出勤も多く、でも手当を払わない、いわゆるブラック企業のX社があったとします。
あまりの辛さに身体を壊して辞めた元従業員Yさんは、自分のブログで、どんな仕事のために自分がどれだけ働かされたか、上司が見て見ぬ振りをし会社が何もしてくれず、どれだけ苦しんだかを書き、その事実に基づいて会社を強く批判しました。
ブラックX社(なんか名前だけはかっこいい)としては、Yさんのブログを取引先に知られたり、就活生の間で噂になって、会社の対外的な評価が大きく下がりました。

しかし、別の側面から見ると、ブラックX社の行っている労務管理は違法なものであり、その情報はコンプライアンスを強く意識する取引先や就職活動をしている学生には大きな価値を持ちますし、違法なブラック企業をなくそうとするお役所や団体などにも重要な情報です。
また、ブラックX社は社会的にも認知された企業であり、違法な労務管理をしていたという事実は、著名なブラックX社に関心を持つ社会一般の関心事でもあります。

このように、その投稿が名誉を毀損するものであっても、それが社会的にも価値があり、そんな社会的な意味を目的にした表現である場合に、その事実が真実であるかまたは真実であると表現者が信じても仕方がないようなものは、名誉毀損にはなりません。

そのため、X社は、当該投稿を削除することができない可能性があります(真実性の証明は証拠がきちんとしていることが前提ですが)。

これは、第1回でも述べましたが、他人に影響を与えていろんな意見や考え方の醸成に繋がっていく点に人間の行う表現の価値があります。
高い社会的価値としてその表現が保護されるべき場合には、たとえ誰かの名誉を毀損しても、表現の価値が優先されるというのは、民主主義社会の根本的な考え方です。

これの発展系としては、X社が違法な労務管理をしていることが取り上げられ、「X社はブラック企業である」というニュース番組や新聞などの論評・意見が多くの人からなされても、Yさんの表現行為と同様に、名誉毀損が認められないこともあります。

このような表現の価値の判断はあくまでケースバイケースです。
しかし、ネットによる風評被害にあった場合には、その表現の社会的な価値を見定めながら、きちんとした風評被害対策をすることが必要です。
たとえば価値ある表現ならば表現で対抗する方が効果的な場合がありますし、無闇に問題の投稿に触れることで火に油を注ぐ(炎上する)こともあります。

そもそもブラックX社の労務管理にも問題があり、その点の改善も、コンプライアンスを意識する企業としては重要ですし、第二第三の事件を生じないための効果的な再発防止策になります。
X社は、ぜひ、「労務管理のすゝめ」を読んできちん対策をしましょう(宣伝)。

ということで、次は、風評被害対策のもう一つのアプローチ、発信者情報の開示(投稿した人を特定する方法)について解説します。

では、また次回!
弁護士 青野博晃